東京地方裁判所 昭和25年(ワ)6479号 判決
原告 村西芳介
被告 三菱化成工業株式会社
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は、「被告会社は原告に対し訴外新光レーヨン株式会社株式九十株、同旭硝子株式会社株式百九十株及び同日本化成工業株式会社株式百九十株を割当て、右各株式につき原告から一株金五十円の割合による株金の拂込を徴した上、之と引換に右株数に相当する株券を発行して引渡せ。若し右株券を発行して引渡すことができないときは、被告会社は原告に対し、金十万三千四百円を支拂え。訴訟費用は被告会社の負担とする。」旨の判決を求め、その請求原因として、
原告は昭和二十三年十一月十五日訴外日興証券株式会社大阪支店より、被告会社の株式百株を買受け、その名義人である訴外錦織英藏の名義書換に要する白紙委任状を添付した株券(五十株券二枚、記号番号旭に第六〇三八号同第六〇三九号)の引渡を受けたので、商慣習法に從い、右株式につき被告会社の株主となつたものであるが、被告会社は企業再建整備法に基く決定整備計画により、昭和二十五年六月一日第二会社である訴外新光レーヨン株式会社、旭硝子株式会社及び日本化成工業株式会社(以下單に新光レーヨン、旭硝子、日本化成とそれぞれ略称する。)を設立して解散し、同年二月二十日現在の被告会社株主に対し、その所有株式一株につき、新光レーヨン株式〇・九株、旭硝子株式及び日本化成株式各一、九株の割合で右各第二会社の株式を割当てることにしたにも拘らず、右割当基準日時に於ける被告会社の株主である原告に対し、右割当をしない。
よつて原告は被告会社に対し、前記原告所有の株式百株に対し、前記割合による各第二会社株式、即ち新光レーヨン株式九十株、旭硝子株式及び日本化成株式各百九十株を原告に割当て、且つ、右各株式につき一株金五十円の割合による株金の拂込を原告から徴收した上、之と引換に右株数に相当する株券を発行して原告に引渡すことを求める。
尚、若し被告会社が右株券を発行して引渡すことができないときは、原告は被告会社に対し、右履行に代る損害陪償として昭和二十六年一月二十六日の本件最終口頭弁論期日に接着する同月二十五日の取引市場に於ける右各第二会社株式の價格、即ち
株式銘柄 單價 株数 合計
(イ) 新光レーヨン 二三二円 九〇 二〇、八八〇円
(ロ) 旭硝子 四七五円 一九〇 九〇、二五〇円
(ハ) 日本化成 八三円 一九〇 一五、七七〇円
以上総計金十二万六千九百円より、右株式合計四百七十株につき、一株金五十円の割合による拂込金額総計金二万三千五百円を差引いた金額金十万三千四百円の支拂を求める。」と述べ、
被告会社の抗弁事実に対する答弁並に再抗弁として、
「原告が昭和二十五年二月二十日現在に於て、被告会社の株主名簿に登録されていなかつたことは認める。然しながら原告が右日時までに名義書換手続を履践することができなかつた訳は、原告が前記錦織英藏名義の株券及び右株券に添付の白紙委任状を昭和二十三年十一月二十七日、大阪市東区本町二丁目三十六番地所在訴外大建産業株式会社内に於て盗取された爲であつて、原告は直ちにその旨を被告会社へ通知の上、昭和二十四年三月十五日東京簡易裁判所に右喪失株券につき公示催告の申立をしたところ、右裁判所は同年六月十八日催告期間を昭和二十五年三月十八日までと定めて公示催告の決定をし、右決定は昭和二十四年十月一日附官報に掲載公示された。而して右催告期間中に、右株券の所持人又は利害関係人から何等の申出がなかつたので、同裁判所は昭和二十五年五月四日除権判決をなし、右株券の無効を宣言した。そこで原告は被告会社に対し同株券の再発行を求め、同月十日新株券の交付を受けた。
右の次第で、被告会社は原告が前記錦織英藏名義の株式を讓受けたこと及び右株券を喪失した爲公示催告の申立中であることを承知していたのであるから、前記割当基準日時にその株主名簿に右株式の株主として登録されている者に対して直ちに前記各第二会社株式を割当てるべきでなく、右公示催告の結果が判明するまで右割当を留保しなければならない。
而して前記のように右割当の基本をなす喪失株券が除権判決により無効を宣言せられ、原告が被告会社より右株券の再発行を受けた以上は、被告会社は原告に対し右割当をなすべき義務あること勿論である。」と述べた。<立証省略>
被告会社訴訟代理人は主文第一項と同趣旨の判決を求め、原告の請求原因事実に対する答弁として、
「被告会社が企業再建整備法に基く決定整備計画により、昭和二十五年六月一日、原告主張のような商号の各第二会社を設立して解散し、同年二月二十日現在の被告会社株主に対し、原告主張のような割合により、右各第二会社の株式を割当てることとしたこと、及び原告主張の日時に於ける右各第二会社の株式の取引市場に於ける價格がその主張の通りであることは孰れも認めるが、その余の事実は爭う。」と述べ、
抗弁として、
「仮に原告がその主張の日時に、その主張のような被告会社の株式を取得したとしても、原告は前記第二会社株式の割当基準日時である昭和二十五年二月二十日現在に於ては、未だ被告会社の株主名簿に登録されていなかつたものであるから、被告会社に対し同日現在の株主であることを主張して、右各第二会社の株式の割当を請求し得る権利を有しない。」と述べ、
原告の再抗弁事実に対する答弁として、
「原告主張の株券につき、その主張のような公示催告の公告が官報に掲載公示されたこと、及び原告がその主張の日時右株券につき除権判決を得、被告会社より新株券の発行を受けたことは孰れも認めるが、その余の事実は爭う。仮に原告の主張事実を全部認めるとしても、原告は右除権判決に基き、被告会社より新株券の交付を受け、之により右株式を自己名義に書換えた日以後、被告会社に対抗し得る株主となるに過ぎないから、被告会社は本件割当請求に應ずべき義務はない。」と述べた。<立証省略>
三、理 由
被告会社が企業再建整備法に基く決定整備計画により、昭和二十五年六月一日、第二会社訴外新光レーヨン、旭硝子及び日本化成の三社を設立して解散し、同年二月二十日現在の被告会社株主に対し、その所有株式一株につき、原告主張のような割合で右各第二会社株式を割当てることにしたこと、及び原告が右割当基準日時に未だ被告会社の株主名簿に登録されていなかつたことは孰れも当事者間に爭いがない。
而して記名株式の讓受人がその讓受の事実を以て会社に対抗し得るが爲には、必ずその氏名及び住所を株主名簿に記載すること、即ち、所謂名義書換の手続を履践することを要し、唯讓受人が名義書換を請求したにも拘らず、会社が正当な事由なくして之を拒絶した場合に於てのみ、書換がなくても右讓受の事実を以て会社に対抗し得るものと解するを相当とするところ原告が前記割当基準日時に於て被告会社の株主名簿に登録されていなかつたこと、即ち右日時までに被告会社への対抗要件である名義書換手続を履践していなかつたことは、前段認定の通りであるから、仮令原告がその主張のように被告会社の株式の讓渡を受けたとしても、右割当基準日時までに被告会社に対し、右讓受株式につき名義書換を請求し且つ被告会社が正当な事由なくして、右書換を拒絶した事実を主張立証するものでなければ、原告は右基準日時現在の被告会社株主であることを被告会社に対して主張することはできないものと言わねばならない。然るに原告は右の点に関して何等の主張立証をしていないのみならず、原告が右基準日時までに何等名義書換を請求しなかつたことは、その主張自体に徴し明かであるから、原告は被告会社に対し右基準日時現在の株主にのみ與えられた本件各第二会社株式の割当を請求する権利を有しないと言うべきである。
原告は右割当基準日時までに名義書換手続を履践することができなかつたのは、右讓受株券を盗取された爲であり、被告会社は原告よりその旨通知を受け、且つ原告が右喪失株券の公示催告申立中であることを承知していたのであるから、右株式の割当基準日時現在の被告会社の株主名簿上の名義人に対する右各第二会社株式の割当は之を保留し、原告が右株券の除権判決を得て、被告会社より新株券の発行交付を受けた以上は、右各第二会社の株式も亦原告に割当てられるべきものである旨主張するけれども、仮に原告の右主張事実の通りであるとしても、株式の移轉は名義書換の手続を履践しなければ会社に対抗することができないことは、前記説明の通りであつて、このことは、たとへ被告会社が原告における株券喪失の事情を知つていたとしても変りがないと解すべきであるから、被告会社としては原告のことを少しも顧慮しないで、前記割当基準日時の被告会社の株主名簿上の名義人に対し、前記各第二会社の株式の割当を実施して差支えなく、右割当を留保して公示催告の結果の判明するのを持つ必要はないと言わねばならない。蓋し、設立手続の発展的過程における集団的取扱が要請する劃一性の然らしめるところである。のみならず、除権判決の効力は、判決の時を以て將來に向つて生ずるに過ぎないから、仮令原告が前記喪失株券につき除権判決を得、之に基き原告会社より新株券の発行交付を受けたとしても、原告は前記喪失株券につき除権判決の時を以てその地位を回復したに過ぎないから、被告会社に対する関係では株主としての対抗要件である名義書換手続を履践しない限りは、その主張をし得ないことは勿論であり、右対抗要件を履践して始めて、その時以後の株主であることを主張し得るに止まる。
孰れにしても、原告は被告会社に対し右割当基準日時現在において株主であることを対抗することはできない。從つて右のような資格を有する株主に対してのみ與えられた本件各第二会社株式の割当を請求する権利はないものと言わねばならない。原告の右主張は結局独自の見解であつて到底採用することはできない。
尚原告は被告会社に対し、第二会社株券の発行引渡を求めているが、被告会社に右株式割当の義務のないこと前記説明の通りである以上、右株券の発行引渡の請求も亦理由がないこと勿論であるが、更に、右株券の発行は、各第二会社に於て之を行うべきものであり、被告会社の権限外の事に属するから、右請求は既に此の点からも理由がないと言うべきである。
以上説明の通りであるから、原告の本訴請求は、其の余の点に関して判断するまでもなく失当として之を棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九條を適用の上主文の通り判決する。
(裁判官 小川善吉 中田秀慧 村上悦雄)